※もし作中世界にエイプリルフールの風習があったなら、というIF二次。
騒々しい足音が急速に迫って来たのに気付いたエリアスは、乱暴なノックと同時にドアが吹っ飛ぶ勢いで開けられても驚かなかった。うるさい、と顔をしかめただけだ。案の定、息を切らせた先輩が立っていた。
凍てつく視線を向けるより早く、先輩が大声で叫ぶ。
「俺はおまえが好きだぞ!!!」
「……は?」
この先輩が人の迷惑を顧みず唐突強引な行動に出るのはいつものことだが、流石にこれはかつてないパターンだ。
エリアスが絶句している間に彼はずいと間近に迫り、目を潤ませて両肩をがっしと掴んだ。
「誰が何と言おうとおまえは悪い奴じゃない! 確実に1人はおまえに好意を持ってる、だから泣くな!」
いやおまえこそ泣くな、と言うのも面倒でエリアスは無言のまま呆れ顔をする。
しばらくそうして冷たい視線を浴びせてやると、ようやくオリヴェルも訝しげな顔になった。
「ようやく気が付きましたか。誰に何を言われたか知りませんが、騙されましたね」
「…俺は、おまえが学院を去ると聞いて」
「ああ、目障りだから失せればいいのにという悪意をこめた嘘でしょう」
「なんでそんな」
「今日は四月一日ですよ」
指摘されてやっと理解した先輩が愕然とする。しばし放心し、彼はまた突然ハッとして叫んだ。
「俺のは嘘じゃないぞ!」
たった今まで騙されていたくせに、何を言うまでもないことを。エリアスはため息をついて応じる。
「そういうことで嘘をつかないのは知っています。あなたにつける嘘といったらせいぜい、今日の昼食は最高に美味い林檎パイがつくらしいぞ、とか言っておいて自分でがっかりする程度でしょうが」
信頼しているのか馬鹿にしているのか微妙な皮肉を受けて、オリヴェルは恥ずかしそうに頭を掻く。
騒がせて悪かったな、と照れ笑いで出て行った先輩が、ちょうどその頃、郷里から家族の訃報を受け取って帰ろうか帰るまいか笑顔の裏で悩んでいたことを、エリアスが知る由もなかった。
(終)
※実際にもオリヴェルは学院在籍中に故郷の家族が亡くなっている設定。
現代と違って旅行がそう手軽にできる世界ではないので、チチキトクとか言われても帰れません。