恒例・嘘SS。今年はほりえびで2編。
故郷へ向かう旅の途中、桜の舞う街路でばったり息子と再会した。
「見損ないました、父上」
開口一番罵倒され、カスヴァは咄嗟に返事もできず立ち尽くす。オドヴァは拳を握り締め、涙の浮かぶ目で父とその隣に立つ人物を睨みつけた。
「苦しい毎日にも、父上と司祭様に救われたのだからと耐えて、チェルニュクを守ろうと励んできたのに……っ、報せもよこさずこんな所で女の人と!」
「待て、誤解だ」
カスヴァは困惑しつつ口を挟んだ。教会の混乱がどうにか落ち着き、信頼できる伝手を確保できた後、親族に宛てて手紙を送ったはずだ。無事でいること、近々村に帰ること。しかし届かなかったか、行き違いになったらしい。とりあえず最初に正すべき点を指摘する。
「彼女とはそういう関係じゃない。おまえも会ったろう、元浄化特使のエリアス殿だ」
「嘘をつかないで下さい! 父上の馬鹿、もう帰って来るなー!!」
絶叫するなり身を翻して走り去るオドヴァ。呆然と見送るだけのカスヴァの横で、女司祭が複雑な顔でつぶやいた。
「ちょっと信用なさすぎでは?」
言外に前科を疑われ、カスヴァは頭を抱えたのだった。
※ ※ ※
上機嫌のユウェインいわく、今日は嘘をついても良い日らしい。聞いた特使は冷ややかに一蹴した。
「貴様のように年中無休で嘘をつく奴に何の意味がある」
「ひどいな。まあ、君みたいに不器用で嘘のひとつもつけない人には、つまらない行事だろうけど」
軽く馬鹿にされたエリアスはむっとして、一呼吸の後、真顔で応酬した。
「ならばこの機会に教えてやる。実のところ私は貴様がそれほど嫌いではないぞ」
「……そういう、人を傷つける嘘は駄目だよ」
反射的に喜びかけたユウェインが悲しげに眉を下げる。むろんエリアスは取り合わない。
「私は嘘がつけないと言ったのはどこの誰だ」
「え? それ、つまり…」
嘘つき悪魔が困惑する。浄化特使は鼻を鳴らして背を向けた。